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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)3490号 判決

原告

小田急交通株式会社

ほか一名

被告

澤田太白

主文

1  被告は、原告石原勇に対し金一六六万六二〇〇円、原告小田急交通株式会社に対し金二二六万九七一三円、及び右各金員に対し昭和五三年一月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告両名のその余の各請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の、その余は原告らの各負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告石原勇に対し金九一九万円、原告小田急交通株式会社に対し金四九九万円、及び右各金員に対する昭和五三年一月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四八年四月二一日午後八時三五分頃

(二) 場所 東京都中央区銀座五丁目七番地先路上

(三) 加害車 自家用乗用自動車(品川五五な六三七号)

右運転者 被告

(四) 被害車 営業用乗用自動車(品川五五あ七二三二号)

右運転者 原告石原勇(以下、原告石原という。)

(五) 態様 加害車は信号待ちのために停車していた被害車に追突した。

2  傷害等

(一) 原告石原は、本件交通事故により、頸椎捻挫、頸椎鞭打損傷、腰部挫傷の傷害を受け、昭和五一年七月一五日症状は固定したが、この当時の後遺症は自動車損害賠償保障法施行令別表、後遺症等級別一覧表に定める第一二級一二号に該当するものであつた。

(二) 原告石原は、事故の翌日である昭和四八年四月二二日から症状固定時である昭和五一年七月一五日までの三年二か月と二四日間にわたり青山外科病院に通院した(実通院日数は三六三回)。

3  責任原因

(一) 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告は、加害車を所有し自己のため運行の用に供していたものである。

(二) 加害車の運行供用者である被告は、前記第1項記載のように、タクシー業を営む原告小田急交通株式会社(以下、原告会社という。)の被用者である原告石原の運転する被害車に追突し、同人に対しその業務執行中に負傷させ、自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償責任を負うものであるが、原告石原は右交通事故により原告会社を後記の期間欠勤あるいは正常勤務不能のやむなきに至つた。

原告会社は同社と訴外小田急交通労働組合との間で締結した労働協約第三九条「会社は、組合員が業務上負傷又は疾病に罹つた場合はこれを補償する。」に基づいて原告会社の被用者であり、右組合の組合員である原告石原に対し後記する給与及び賞与を右損害賠償等の立替金として支払い、これにより右支払額に相当する原告石原の損害を填補したものである。よつて、原告会社は、原告石原の被告に対する自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償請求権を代位取得したものである。

4  損害

(一) 原告石原の損害

(1) 治療費 金一〇万円

原告は訴外青山外科病院に対して本件交通事故による傷害に関する昭和四八年四月二二日から九月七日までの治療費として金一〇万一二六〇円を支払つたので、治療費に要した損害は金一〇万円を下らない。

(2) 通院交通費 金二一万円

(イ) 千葉県千葉市浪花町の自宅から訴外青山外科病院までの交通費

昭和四八年四月二二日から同四九年七月一九日までの間に通院二二四回、往復運賃金四二〇円、合計金九万四〇八〇円。

昭和四九年七月二四日から九月二四日までの間に通院三〇回、往復運賃金四八〇円(京成電車運賃値上げが同年七月二〇日から実施)、合計金一万四四〇〇円。

昭和四九年一〇月二日から一一月三〇日までの間に通院二三回、往復運賃金五二〇円(地下鉄運賃値上げが同年一〇月一日から実施)、合計金一万一九六〇円。

(ロ) 千葉県夷隅郡岬町の自宅(昭和四九年一二月一日から転居)から青山外科病院までの交通費

昭和四九年一二月一日から昭和五一年七月一五日までの間に通院八八回、往復運賃金一〇二〇円、合計金八万九七六〇円。

なお、原告石原は、当時転居を考えていたところ、環境の良い海辺の近所が好ましいと勧められたので肩書地に転居し、担当医師に対しては遠距離を理由に転医を申し出たが、治療上の理由から継続治療を勧められたものである。

(ハ) 以上、原告は通院交通費として合計金二一万〇二〇〇円を支出したので、右に要した損害は金二一万円を下らない。

(3) 休業損害等 金一一五五万円

原告の収入は、本件交通事故により昭和四八年四月二二日から昭和五五年一二月(昭和五二年七月の約三年六月の後に該る)までの間に金一一五五万円を下らない損害を受けた。

原告は昭和四七年の年収は金一六八万八四五三円であり、同僚の訴外乙訓庄作のそれは金一六六万八〇一九円であつて、原告より金二万〇四三四円下廻つていたのであるから、原告のその後の年収は右訴外人のそれを下廻らないと考えられる。訴外乙訓の昭和四八年の年収は金一九七万七〇六九円、同四九年の年収は金二二九万〇〇六五円、同五〇年の年収は金二七五万六五九一円、同五一年の年収は金二八五万八四〇四円、同五二年の年収は金三二一万一九九七円で以上の合計は金一三〇九万四一二六円である。そして昭和五三年以降も同五二年の年収を下廻ることはないので昭和五五年一二月末日までの収入損は金一二二万八〇七四円となる(後遺症は前記一二級であるから、労働能力喪失率は一四パーセント、同喪失期間は昭和五二年七月から約三年六月を切ることはないと考える。)。

3,211,997×0.14×2.7310=1,228,074

原告の事故後における実収入は、原告会社から就労できなかつた期間にもかかわらず賞与として支給されたものが主であり、昭和四八年の年収は金七一万七九二〇円、同四九年の年収は金二七万二四〇〇円、同五〇年の年収は金三四万一四〇〇円、同五一年の年収は金三五万九四〇〇円、同五二年の年収は金一〇七万七四一七円であり、以上の合計は金二七六万八五三七円となる。

したがつて、昭和四八年四月二二日から同五二年一二月末日までの収入損は金一三〇九万四一二六円から金二七六万八五三七円を控除した金一〇三二万五五八九円、昭和五三年一月一日から同五五年一二月末日まで収入損は金一二二万八〇七四円となり、右合計金一一五五万三六六三円が総収入損であり、金一一五五万円を下らないのである。

(4) 慰藉料 金四四〇万円

(イ) 昭和四八年四月二二日から同四九年一〇月までの通院慰藉料として金九三万円。

(ロ) 昭和四九年一一月から同五一年七月一五日までの通院慰藉料として金六七万円。

(ハ) 後遺症慰藉料として金二八〇万円。

(5) 損害の填補 金七九〇万円

(イ) 原告は原告会社から昭和四八年四月二二日から同五二年一〇月四日までの収入損の一部として合計金六八五万二五六七円の支給を受けた。

〈1〉 昭和四八年四月二二日から同四九年九月三〇日までの分として金一九三万二二一三円。

527(日)×3,666.44(円)≒1,932,213(円)

〈2〉 昭和四九年一〇月一日から同五一年七月一五日までの分として金二九二万五三七四円。

654(日)×4,473.05(円)≒2,925,374(円)

〈3〉 昭和五一年七月一六日から同五二年一〇月四日までの分として金一九九万四九八〇円。

446(日)×4,474.05(円)≒1,994,980(円)

(ロ) 自動車損害賠償責任保険金(傷害分) 金二〇万円。

(ハ) 労働者災害補償保険金 金八三万九三四四円。

以上(イ)ないし(ハ)の合計は金七九〇万円を越えない。なお、右の他に自動車損害賠償金金三〇万円と労働者災害補償保険金金三二九万七九二二円を原告石原に代わり原告会社が受領していることは後記のとおりである。

(6) 弁護士費用 金八三万円

(7) 総合計 金九一九万円

以上第(1)ないし第(4)項の損害項目の金員から第(5)項の金員を控除した残金に第(6)項の金員を加算すると合計金九一九万円となる。

(二) 原告会社の損害

(1) 原告会社は、原告石原をタクシー運転手として雇用していたものであるが、原告石原は原告会社の業務の執行中に本件交通事故により受傷し、昭和四八年四月二二日から同五二年一〇月四日まで原告会社を欠勤(昭和五一年七月一五日まで)ないしタクシー運転業務への就労不能(同五二年一〇月四日まで)を余儀なくされた。

原告会社は前記労働協約第三九条に基づき組合員である原告石原に対し立替金として次のとおり毎月及び毎季に給与及び賞与を支払つて損害を受けた。

(イ) 昭和四八年四月二二日から同四九年九月三〇日までの給与分の合計金一九三万二二一三円

527(日)×3666.44(円)≒1932213

(ロ) 昭和四九年一〇月一日から同五一年七月一五日までの給与分の合計金二九二万五三七四円

654(日)×4473.05(円)≒2925374

(ハ) 昭和五一年七月一六日から同五二年一〇月四日までの給与分の合計金一九九万四九八〇円

446(日)×4473.05(円)≒1994980

(ニ) 昭和四八年末の賞与から同五二年の夏季の賞与までの合計金一二九万円

(ホ) 以上の合計立替支払分は金八一四万円を下らない。

(2) 損害の填補 金三六〇万円

(イ) 自動車損害賠償責任保険金(傷害分)金三〇万円

(ロ) 労働者災害補償保険金 金三二九万七九二二円

(3) 弁護士費用 金四五万円

(4) 総合計 金四九九万円

以上第(1)項の金員から第(2)項のそれを控除した残金に第(3)項の金員を加算すると金四九九万円となる。

5  結論

よつて、原告石原は被告に対し損害賠償金金九一九万円、原告会社は被告に対し損害賠償金金四九九万円と右各金員に対する不法行為日の後である昭和五三年一月一日から支払ずみまでそれぞれ民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項、(一)の事実は不知、(二)のうち被告が青山外科病院に原告石原を紹介したことは認めるが、その余は不知。

3  同第3項、(一)の事実は認め、(二)の事実中、被告が自動車損害賠償保障法三条の責任を負うことは認め、その余は不知。

4  同第4項のうち(一)、(5)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)、(2)、(イ)、(ロ)の各事実は認め、その余は不知。

第三証拠〔略〕

理由

一  (事故の発生)

請求原因第1項の事実は全当事者間に争いがない。

二  (責任原因)

1  運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

請求原因第3項、(一)の事実は全当事者間に争いがない。

2  賠償者の代位

原告石原はタクシー業を営む原告会社のタクシー運転手であるが、その業務の執行中、本件交通事故に遭い負傷し、そのために原告会社を後記期間欠勤し、そして出社後もタクシー業務への未就労期間は同社の雑用に従事せざるを得なかつたが、原告会社は右のような従業員の業務上の災害に関する労働協約に定めるところに従い後記の給与及び賞与を支給してきたこと、以上の事実は後記認定するとおりである。

成立に争いのない甲第二〇号証及び証人加藤貞雄の証言によれば、原告会社と訴外小田急交通労働組合との間で締結された労働協約の第三九条には「災害補償」との表題を掲げて「会社は、組合員が業務上負傷又は疾病に罹つた場合は、これを補償する。但し、補償を受ける組合員が同一事由によつて労働者災害保険法その他の法令によつて保険給付を受けた場合は、その金額の限度において会社は、補償の責を免れる。」と規定されていること、右にいう補償とは事故前三ケ月の平均給与などを基礎とする一〇〇パーセントの給与相当分などの支給を意味するとの解釈の下に労使間で運用されていること(就業規則六六条参照)、会社が災害補償をした場合に損害賠償請求権の代位取得について定める規定はないが、労使双方ともに右補償が損害金の立替払の性質も帯有するとの了解は当然の前提としていることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、原告会社が災害補償を支給した場合、同社が原告石原の被告に対する損害賠償請求権を代位取得すること(民法四二二条類推適用)を妨げる事情は窺われず、本件の場合、被告が原告石原に対し自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償義務を負担することは前判示のとおりであるから、災害補償を支給した原告会社は、原告石原の有する右自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償請求権のうち本件災害補償金と重複する範囲内の損害項目に関する限りの損害賠償請求権を代位取得したものと認めることができる。しかるとき、原告会社が取得すべきものは、後記損害項目のうち治療費、休業損害、後遺症による逸失利益の各項目に関する限りの損害賠償請求権である。

三  傷害等

成立に争いのない甲第二ないし第七号証、同第一九号証の二、三、同乙第三号証及び原告石原勇本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、乙第一、第二号証だけでは右認定を左右するに足りず、他に右認定に反する証拠はない。

原告石原は、本件交通事故の結果、頸椎捻挫、頸椎鞭打損傷、腰部挫傷の傷害を受け、青山外科病院において昭和四八年四月二二日から同五一年七月一五日までの一一八一日間通院して治療を受け(実通院日数三六三日)、頸椎牽引療法、マツサージ、超短波療法、低周波療法などの施療により漸次快方に向うも、昭和五〇年八月ころは症状は一進一退し、右手の振戦及びしびれ、項部痛を訴え、昭和五〇年末は項部痛、右手の振戦及びしびれは次第に軽減し(特に右手のしびれ感は軽減)、昭和五一年に至り項部痛、右手の振戦及びしびれはなお一進一退し雨天の前などに強く発現し(担当医師は症状固定に近きものと判断するようになる。)、昭和五一年五月三一日では項部痛、右手の振戦及びしびれ(治療後は振戦一時消失する。)、時折の右下肢のつれるような疼痛、右手握力低下が認められ、同年七月一五日〈1〉記憶力の減退、吃音(長期間話すと)、〈2〉右手のしびれ感、〈3〉右手の振戦、〈4〉右手握力の低下などの後遺症を残して症状固定と判定され、同時に右〈2〉及び〈3〉の後遺症により就労能力の低下を来すと判断された(甲第二号証、乙第三号証)。

そして右症状固定時と後遺症状に変化のない昭和五二年一〇月七日原告石原は訴外渋谷労働基準監督署長から労働者災害補償保険法施行規則別表障害等級表第一二級の一二号に該る旨の通知を受けた。したがつて、原告の前記症状固定時の後遺症の症状は自動車損害賠償保障法施行規則別表等級別後遺症一覧表第一二級の一二号に該るものと認めることができる。

四  損害

1  治療費 金一〇万一二六〇円

前掲甲第三、第四号証によれば、原告は訴外青山外科病院に対し本件交通事故による傷害に関する治療費(昭和四八年四月二二日から九月七日)として金一〇万一二六〇円を支払つたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

2  通院交通費 金一六万六二〇〇円

成立に争いのない甲第一号証、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものといずれも認められる甲第八号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、原告は千葉県千葉市浪花町四四所在の自宅から東京都港区北青山三―九―三所在の訴外青山外科病院までの通院交通費として〈1〉昭和四八年四月二二日から同四九年七月一九日までの間における通院二二四回分(往復運賃金四二〇円)合計金九万四〇八〇円、〈2〉昭和四九年七月二四日から九月二四日までの間における通院三〇回分(往復運賃金四八〇円、同年七月二〇日に京成電鉄の運賃が片道金三〇円値上げとなる。)合計金一万四四〇〇円、〈3〉昭和四九年一〇月二日から一一月三〇日までの間における通院二三回分(往復運賃金五二〇円、同年一〇月一日に地下鉄千代田線の運賃が片道金二〇円値上げとなる。)合計金一万一九六〇円を支出したこと、昭和四九年一一月二七日に原告が千葉県夷隅郡岬町の肩書地に転居後の通院交通費としては昭和四九年一二月一日から同五一年七月一五日までの間における通院八八回分(往復運賃金一〇二〇円)合計金八万九七六〇円を支出したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。なお、原告の右転居が治療上の要請によるものであることを認めるに足る証拠はない。したがつて、転居後の交通費金八万九七六〇円のうち金四万五七六〇円(往復運賃金五二〇円で計算)が本件事故と相当因果関係のある損害になる。そこで以上を合計すると金一六万六二〇〇円になる。

3  休業損害 金五四六万二一二五円

証人加藤貞雄の証言により真正に成立したと認められる甲第一〇号証、同第一一ないし第一四号証の各一ないし一二、同第一五号証の一ないし七、証人加藤貞雄の証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告石原は健康な男性であり、本件交通事故当時、タクシー業を営む原告会社の被用者(タクシー運転手)としてその業務に従事していたものであるが、本件交通事故により前記認定のように受傷し、その結果、昭和四八年四月二二日から同五一年七月一五日までの一一八一日間原告会社に就労することができなかつたが、本件事故前である昭和四七年の原告の収入は金一六八万八四五三円であり、一日平均収入は金四六二五円(一円未満切捨)であることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。なお、休業損害の算定に関し、原告は同僚である訴外乙訓庄作の給与等と比較して同訴外人の収入以上は原告も収入を挙げえたと主張するが、不確実な要素が多く採用することはできない。

しかるとき、原告の右休業期間の得べかりし利益は金五四六万二一二五円を下廻らないことが認められる。

4625×1181=5462125

4  逸失利益 金六四万三五九四円

叙上認定のように原告は健康な職業人として稼働していたが、本件交通事故の結果、昭和五一年七月一五日症状は固定したが、前記のように自動車損害賠償保障法施行規則別表等級別後遺症一覧表第一二級の一二号に該当する後遺症を残していたのであるから、右固定時の後の三年間に亘り平均して労働能力を一四パーセント喪失したと認めるのが相当であり、本件交通事故に遭遇しなければ右期間に得べかりし年収益は前記金一六八万八四五三円を下らないものと推認するのが相当なので、以上を基礎としてライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して原告の逸失利益の現価を算定すると金六四万三五九四円(一円未満切捨)となる。

1688125×0.14×2.7232=643594.28

なお、原告主張の昭和五一年七月一六日以降の損害額算定方法のうち右判示部分に反するものは採用しない(なお、昭和五二年七月当時と同五一年七月一五日当時と原告石原の後遺症状に変化のないことは前記認定のとおりである。)。

5  慰藉料 金二〇〇万円

叙上認定の原告の受傷の程度内容、治療経過、後遺症の内容及び程度、事故の態様、その他本件口頭弁論に顕われた諸般の事情を斟酌すると、本件交通事故により原告石原が被つた精神的苦痛を慰藉するため相当な額は金二〇〇万円を下らないと認める。

五  損害の填補

1  原告石原が自動車損害賠償責任保険金金二〇万円を受領し、同保険金三〇万円は原告会社が代つて受領していることは全当事者間に争いがない。

2  原告石原が労働者災害補償責任保険金金八三万九三四四円を受領し、同保険金金三二九万七九二二円は原告会社が代つて受領していることは全当事者間に争いがない。

六  原告会社の災害補償給付

1  前記認定の事実及び前掲甲第一〇号証、同第一一ないし第一四号証の各一ないし一二、同第一五号証の一ないし七、同第二〇号証、証人加藤貞雄の証言により真正に成立したと認められる甲第一五号証の八ないし一二、同第一六号証の一ないし一二、同第一八号証の一ないし一一、証人加藤貞雄の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

雇用者である原告会社は被用者であり訴外小田急交通労働組合の組合員でもある原告石原に対し、同人の業務中の本件事故による負傷について、昭和四八年四月二二日から同五二年一〇月四日までの間に、次の(一)及び(二)のとおり災害補償給付金を支給した。

(一)  給与相当分(就業規則六六条参照)

(1) 昭和四八年四月二二日から同四九年九月三〇日までの合計金一九三万二二一三円(一円未満切捨)。

527×3666.44=1932213.88

(2) 昭和四九年一〇月一日から同五一年七月一五日までの合計金二九二万五三七四円(一円未満切捨)。

654×4473.05=2925374.7

(3) 昭和五一年七月一六日から同五二年一〇月四日までの合計金一九九万四九八〇円(一円未満切捨)。(この期間、原告石原は原告会社に出社はするもタクシー業務に就労できなかつたために、同社の雑用に従事していた。)

446×4473.05=1994980.3

以上(1)、(2)、(3)を合計すると金六八五万二五六三円となる。

(二)  賞与

(1) 昭和四八年末分 金一二万四〇〇〇円

(2) 昭和四九年夏季分 金一二万九九〇〇円

同年年末分 金一四万二五〇〇円

(3) 昭和五〇年夏季分 金一六万二二〇〇円

同年年末分 金一七万九二〇〇円

(4) 昭和五一年夏季分 金一七万二九〇〇円

同年年末分 金一八万六五〇〇円

(5) 昭和五二年夏季分 金二〇万二五〇〇円

以上(1)ないし(5)を合計すると金一二九万九七〇〇円となる。

2  叙上認定したところによれば、原告会社は原告石原に対し本件交通事故に基づく同人の負傷につき、労働協約に基づく災害補償として、昭和四八年四月二二日から同五二年一〇月四日までの給与相当分と賞与合計金八一五万二二六七円を支給したのであるから、前判示のように原告石原の被告に対する自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償請求権のうち治療費、休業損害、逸失利益の項目の合計金金六二〇万六九七九円の損害賠償請求権を代位取得するところ、既に労働者災害補償保険金金四一三万七二六六円の受給をしているので、原告会社が代位取得するのは残金二〇六万九七一三円の被告に対する損害賠償請求権であるといわなければならない。そして、以上から明らかなとおり、原告石原は治療費、休業損害、後遺症による逸失利益の各損害項目は填補されたものというべきである。

七  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告らは原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び謝金として各相当額の支払を約していると認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、事件の難易及び前記損害額に鑑みると、弁護士費用としては原告石原については金一六万円、原告会社については金二〇万円をもつて本件交通事故と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。

八  結論

以上のとおりであるから、原告石原の本訴請求は金二一六万六二〇〇円から自動車損害賠償責任保険金金五〇万円を控除した残金金一六六万六二〇〇円、原告会社の本訴請求は金二二六万九七一三円及び右各金員に対するそれぞれ不法行為日の後である昭和五三年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからいずれもこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言については同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田龍樹)

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